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稲村月記 vol.16 高瀬がぶん 

微冒険シリーズ・その3 「ちゃらおじさん」の巻
 

2002.07.29


日焼けサロンにせっせと通っている若造を「ちゃらお」と呼ぶらしいが、ほぼ毎日、海で焼いているぼくは、さしずめ「ちゃらおじさん」といったところか?
でもちょっと違う。日焼けサロンで焼いてる若造はナンパのためにとか、それなりの目的意識はあるかもしれない。その点ぼくにはそんなたくらみはない。ただ微冒険がしたいだけ。
となると、「なんでそんなに焼いてんの、意味ないじゃん」という意見も当然出てくるわけで、そう問われれば、「さぁ・・・・(一拍あけて)・・・・♪なんでだろぅ♪なんでだろぅ♪なぜだなんでだろう〜! と答えるしかない。
でもよく考えてみると、この世の中のあらゆる物や事の意味なんてものは、もともとそれ自体に潜在しているわけではなくて、そこから生れ出てくるものなのではないかと思う。と言っても、ほっとけば自動的に生れてくるというものではなく、他者の意味づけによって生れてくるということだ。ということはつまり、世界そのものにだって元々意味なんかあるわけじゃなく、人類を中心とした他者が勝手に意味づけを行っているにすぎないということだ。もちろん人によってその意味も違ってくるわけで、統一的な世界観や認識なんてものは在りようもない。意識の味、心の味、実によくできた言葉で、人のよって舌の感覚が違うのだから、当然、その味わいも変ってくるわけだ。そんなことを言うと、統一的認識を旨とする真理好きの宗教者はきっと嫌な顔をするに違いないけれど、案外ほんとうなんだからしょうがない。
ついでに言うと、右腕をあげたまま30年とか、転がって世界一周とかいうインドのヨガ行者のおじさんたちだって、その行為自体の意味なんて結局わかんないのだと思う。そんなふうな、どうしたって馬鹿げているようにしか見えない行為も、呆れるほど長いことやっていれば、本人も気付かぬうちに、なんらかの哲学的意味を見出しちゃったりするんだろうと思う。その上、運がよけりゃ悟りを開いちゃったりもするのだから、ぼくだってこのまま体を焼き続ければ、いつか、深遠な人生の秘密を知ることができるかもしれないしその前に皮膚ガンになるかもしれない、ありゃりゃ。でも平気。皮膚ガンで毎年一万人も二万人も死ぬわけじゃあるまい。そんなことを気にするくらいなら、海への行き帰りの交通事故(年間平均一万人=交通事故死)や、うっかり思い余って稲村が崎公園の崖っぷちから飛び降り(年間平均二万人=自殺)たりしないように気をつけるほうがよっぽどましだ。

今日は久しぶりに稲村の海に入った。
泳いだわけではなく浸かったのだけれど。
砂浜の方を見ると、サーフボードを脇に抱えた若者が波打ち際をかなり颯爽と歩いている。やがて方向を変え、R134に通じる石段のほうに向かって砂浜を歩き始めたのだが・・・・。
「ドタ、ドタドタ、ドタドタドタ、ドタドタピュ〜〜〜!」と。ははは、カッコわるぅ。
それもそのはず、砂は焼けるように熱い。これは別に一般論で言っているわけではない。稲村の砂浜は他の浜辺と違って特別に熱い、と思われるからだ。一度来てみれば分かるが、同じ鎌倉でも稲村の砂は由比が浜や七里浜ヶ浜と違って真っ黒の色をしている。それは砂鉄の成分が多く含まれているからで、化学的には、たぶん砂より鉄の方がより熱くなるだろうと思われる。それで思い出したが、小学生のころ、理科の実験に使うからと、クラス全員で稲村ガ崎の浜に磁石持参で砂鉄を取りに来た記憶がある。

で、体を焼く、とにかく焼く。
目を開いたまま焼いたりしてはいけない。紫外線が目に悪いとかではなくて、目を開けたまま焼くと目蓋の部分が白く焼け残ってしまうからだ。
目をつむって寝ていても日射しはかなり強烈で、薄い目蓋の部分に特に熱を感じる。しかし、だからといってまぶしいような顔をしたまま焼いたりしてもいけない。歪めた顔にできるシワの部分がやっぱり白く焼け残るからだ。特にいい年をしたおやじはそれでなくてもシワが多いのだから注意が肝心。
それと焼きムラができないように、適当な時間を見はからって表(胸)と裏(背中)を交互に焼くわけだが、例えばこれから一時間焼くと心に決めて横たわった場合、表35分裏25分くらいが適切だ。なぜなら、焼くということを意識していない時間帯は、とにかく暑いもんで、自然と日射しを避けるような姿勢、つまり太陽に背中を向けてしまっていることが多いからだ。また、肩の頂はどんな状態でも常に日射しに晒されていることになり、十分オイルを塗っておかないとすぐに剥けることになるから特に注意すべし。
それと余談だが、陽に焼いていると時折目がシバシバするので、そういう時のために目薬を用意しているのだが、それをバッグから取り出しいきなりさしたりすると、VロートクールのくせにVロートホットになってたりして「あっつつ!」となりかねないので、というかぼくはなりかねた、、これもまた注意が必要。
さて、ほんとうになんでこんなにぼくは体を焼いてるんだろうか?
「♪なんでだろぅ♪なんでだろぅ・・・・、もういいって!!」


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