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稲村月記 vol.19  高瀬がぶん

 

帰ってきた、少年時代のイチ。
 


 

2002.10.6


 
ある日の朝、そいつは突然そこにいた。
パソコンの脇のほとんどゴミ箱化している押し入れの奥深く。
マックの起動音に反応したのか、押し入れの奥から、
「ゴソゴソ!! ゴソゴソ!」
ゴキブリにしては大きな音だと思って、もしかしてまたすみちゃんがリスでも捕まえて来たのかとも思って、それとも、こないだもがぶ姉の家のテラスでバッタリ目が合ってしまったアライグマかなんかかと思って懐中電灯で照らして見ると・・・・、なななんと、、イチが帰って来てる!!、、、と思った。
ほんとに、イチにそっくりではないか。しかもうちに来たばかりの頃の少年時代のイチ。
頭の模様、ちょっとガラの悪い目つき、そして目の離れ具合、なにもかもイチを彷彿とさせた。
こいつはいったいどこから? なぜここに?
ま、この際そんなことはどうでもいいか。
「イチ!」と呼びそうになって、いや、イチの次だからニイだな、「ニイちゃん!」と呼んでみるが、怖がって出て来ない。それから30分ばかり、あれやこれや試してなんとかおびき出そうとするがすべて失敗に終る。その騒ぎを聞きつけたすみちゃんがやってきて、よせばいいのにニャーニャーと。そんなことしたら、余計に怖がっちゃうでしょ! 
このままでは埒があかないので、棒でつっつき作戦という強行手段に打って出る。でもその前にすみちゃんは所払いだよ。
「ガシャガシャガシャガシャ!」
「フギャー!」
ついにそいつは押し入れからぴゅーっと飛び出し、パソコンの上を走りぬけ、コタツの中にもぞもぞ! いやぁ、ついにこの夏もコタツ布団をしまわなかったなぁ、と自分でも感心。それが幸いして、ちょうどいい隠れ場所になっているわけで、思えばてんこちゃんもいつもこの中に入っていたっけ。
そーっとふとんを開け、ゆっくり手を伸ばして「ニイちゃん」のお腹あたりをつかむ。また騒ぐと思いきや案外おとなしく、体も緊張していない。つかんだ感じではまだ仔猫に毛が生えた(もともと生えてるし)程度の年齢だろうと思われた。たぶん1才くらいか。
そのとき小さく「ニャー」と鳴いたが、それはすでに飼い猫の声であり、抱かれ上手でもあった。でも体の薄汚れ具合では半野良といったところで、迷い猫か捨て猫か、いずれにしても純粋の野良ではなさそうだ。
その時点でボクはもう「ニイちゃん」を飼っちゃうことに決めてしまった。どこかの電信柱でこいつの写真を貼った迷い猫のポスターでも見かけたらどうしようとも思うが、とりあえずお前はこの家にいなさい。


それから5分後にはもうすっかり落ち着いてゴハンを食べ、再々度猫のトイレを置いてみると、これまた見事にオシッコをジョー! うん、えらいや。そして、すっかり満腹になると、ピョンピョンとパソコンの上を飛び跳ね、プリンターを覆っている段ボールの上に乗って、ペトッと座ってしまった。あ、こいつも飼われる気になってる。フガチャンが死んでまだ間がないっていうのに、それに、すみちゃんにしたってガキ猫がいなくなってやっと落ち着けたと思っていただろうに、でもしょうがないよ、イチの生まれ変わりかもしれないし、 そうだね、これも何かの縁。
不思議なことにすみちゃんはあんまり動じていない。襖の向こう側から聞こえてくるすみちゃんの声もまったく緊張していない。試しに部屋に入れてみるも、ニイちゃんの存在には気付くものの、まったく態度が変らない。無視、ではないが、いても気にならないよ、という感じ。
15分後にはニイちゃんも高い所から降りてきて、二匹は畳の同一平面上のあっちとこっちに。
しばらく観察を続けることにしよう。
ニイちゃんもニイちゃんで、やっぱりフガチャンと違ってだいぶ大人だから、むやみにすみちゃんに突進したりする気はなく、極めて興味深いのだけれども、ちょっと怖いから、すみちゃんが目をそらした隙にサッサッサッっと近寄っては気付かれる前に伏せて止まる、そうそう、まるでだるまさん転んだ状態。
このぶんなら二三日もすればすっかりお仲間になってしまうだろう。ただ両方とも男の子なので、しかも去勢もしていないからマーキングしまくって、シッコの館になる危険性はある。実はすでにちょっとなっていて、どこにしたのか分からないけれど、猫トイレ以外の場所からツーンとする臭いが漂っている。かなり臭いに麻痺しているこのボクでさえ匂うのだから、外からやってきた人はそりゃあたまらない、かもしれない。
でもこれも一時のこと。ニイちゃんを外に出すようになれば、自然と家の中にはしなくなると思う。あと数日したら散歩の練習をしよう。ニイちゃん、くれぐれも車には気をつけるんだよ。
と、その前に、にいちゃんはまだこの家の他の部屋には行っていない。襖の向こうにはどんな世界が待っているのやら、にいちゃんの微冒険はこれからまだ当分続く。


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