斎門りょうこプロフィール
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葉山に、写真家の夫、斎門富士男とネコ30匹、
ゲスト(居候)や、アシスタントなどと暮らす。
主婦、夫のマネージメント、写真集のAD、ホームページ制作。
撮影手配、スケジューリング、展覧会の使いばしり。特技は同時並行的に、
電話をしながら、テーブルの会話を把握し、アシスタントの行動に口をだしながら、
猫の頭を撫で、玄関に人が来た気配を察知できること。
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「猫ばなし」というのは、
始まりも終わりも、結論もない、言ってみれば、
「無意味」な話。
猫を見ていると、例えば、階段を登りかけていたと、思っていたら、
片足を一段上に置いたまま、なぜか急にお手入れをはじめたり、
きれいなお水が目の前にあるのに、花瓶の水をわざわざ飲んだり、
壷から出たり入ったり。
たくさんの「よく、わからない行動」をするからです。
そんな、あまり意味をもたない行動っていいな、と思います。
サイモン家にて・1
サイモン家にて・2
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月曜日
たまらず、脱走した。
伊東の山のてっぺんにマーちゃんの家がある。
高床式の昼寝スペースに「ミュー」が寝ていた。
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ミュー、7ヶ月
マーちゃんのお母さんとミュー。
お母さんはいつも、キチンと髪を結い上げ、
お化粧もしていて、スキがない。
マ−ちゃんちの玄関に使ってる石はうちのリビングとおそろい。
火曜日
家のネコの部屋を掃除。 |
水曜日
2階の和室で子育てしているザビちゃんは、臆病すぎて、 誰かまわず、「ケー、ケーッ」と力いっぱい、脅す。 ちょっと、マネてみたら、顎とホッペにかなり力を入れないと、できない。 「ふーん、顎が強くなるから、ケーケーしてたら、長生きかもね。」 それに、なにがなんでも、他の猫とうまく、やってけなきゃ、生きていけないわけじゃないし。 自分が他者と戦うガッツが必要なだけだもんね。 「ザビ、その意気で、やれるだけやってみたらいいじゃない」 昨日まで、ザビのケケー顔を見るたびに 「もっと、受け入れた方が楽だヨ」 と言っていたのだが、ケーケーは彼女の発散なのかも、と思い直した。 すると、不思議! ザビはピタッとケーケーをやめた。うーん? ちなみに、ザビの赤ちゃんのウシちゃんは、異様に人なつっこい。 |
金曜日
東京の谷中という町にある「猫町」というギャラリーに用事があって出かけた。 根津や上野、鴬谷あたりから、近いらしい。 初めての場所に行くのは、なんとなく、うれしくて、すぐ旅行気分になって、 あっちこっち、キョロキョロだ。 喫茶店がやたらいっぱいあって、「フルヤコーヒー」とか、なんか古っぽい 電飾看板や「あんみつ、あります」の貼り紙などに注目する。 でも、いちばんのビックリは、ギャラリー猫町界隈は、どのお店に入っても、 猫柄の布を売ってたり、猫の絵が飾ってあったりすることだ。 約束の時間より早かったので、「乱歩」という古い喫茶店に入った。 もちろん、猫の絵がガラスドアにはられている。 エプロンをした銀色の髪のおじいさんが、どうやら店主らしいのだが、 なんだか、顔が猫に似ている。 招き猫専門店にも入った。 机のむこうにお婆さんが座っている。 関心があるのか、無関心なのかわからない表情で、ぼんやり、こちらを見てる。 すると、背中ごしにスッと風が通ったような気配を感じて、私は振り向いた。 小柄で、髪の毛が背中まであふれている女の人が、足音もなく、 私の後ろをすりぬけ店の奥の引き戸を開けようとしている。 「あれっ、この人、知ってる」 視線を感じたのか、彼女が振り向いた。 「やっぱり、ゴクウの人ですよね。ティアラ江東で、和太鼓、叩いてた人ですよね」 「あれ、見に来てくれてたんですか?」 目尻がキュッと上がった、大きな目が私を見つめる。 またしても、猫みたい。 ひとしきり、その人と話し、今度、会う約束までして、私はようやく ギャラリー猫町に行った。 一軒家の古い日本家屋の2階の畳の部屋で、打ち合わせ。 斎門富士男の猫写真で個展をやりませんか、と誘ってくださったのだ。 私は、なんだかさっき偶然、会った女性のことが頭からはなれず、 開口いちばん、そのことを話した。 「ああ、あの人が、このギャラリーの大家さんなんですよ」 これまた、座ぶとんに坐ったかっこうが猫みたいな、ギャラリーのご主人が ニコニコと微笑む。 あれえ?、これって、猫の縁かしら? 今日はなんか時空を超えた気がするなあ。個展やってもいいなあ。 「9月の末ぐらいだったら、大丈夫なんですが….。」 そう言って、私は谷中から、葉山にもどった。 |
土曜日
今日は夫の斎門富士男が江ノ島でニャンコ先生。 「猫の写真」の撮り方をカルチャーカレッジに集まった生徒さんに教えるのだ。 どんなふうに教えるのかなあ、と思っていたら、 「猫の写真を撮る愉しみは、知らない町に来て、猫を探すことも、ひとつです。 今日一日、この町で、猫を探して写真を撮った、という思い出になるような写真、 この町の空気が伝わるようなものを撮ってください」 へえ、案外、まともなことを言うじゃありませんか、と感心していたら、 その後は、ほとんど、生徒の人、ほったらかし。 われ先へと、バシバシ、猫を撮っているではないか。 「さあ、みなさん、植物園の方に移動しましよう」 そして、また、サッと何処かへ写真を撮りに行っては、いなくなってしまう。 講座の責任者である、平凡社の人も、 「サイモンさん、今日はのってますねえ!」 半分、あきれ顔で、つぶやく。 またたくまに、3時間が過ぎ、講座は終わった。 それにしても、江ノ島は猫がいっぱい。 猫に話しかけていた、おじさんは 「これは、ヒロシ。こっちはジローっていうんですよ。さあさあ、みんな、 写真を撮ってもらいまちょうね」と、幼児語で言う。 公園で、バケツ一杯、御飯と魚を混ぜたものをあげている、お婆さんもいた。 あっちの路地、こっちの魚やさん、自転車の影、いたるところ、猫だらけ。 けっこう、いいとこ。 |
江の島の猫たち
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サイモンと猫