◆◇◆日経新聞 「プロムナード」3月25日(木)夕刊◆◇◆


 まだマスコミでは控え目にしか報道されていないが、WHO(世界保健機構)が煙草に次いでアルコールの規制に動き出したそうだ。私はもともと今の煙草規制は嫌いだった。煙草を嫌いな人たちが主導権を握って規制しているから止(とど)まるところがない。つまり、愛嬌もユーモアも人情もない。捕鯨反対と同じだ。反捕鯨団体のシーシェパードだって、鯨の季節が終わったら今度はクロマグロ漁反対をはじめたという。自分たちは牛も豚も食べないんだろうか。

 シーシェパードじゃない。煙草とアルコールの話だ。煙草を規制するなら、アルコールも同じだけ規制するべきだと私は前から思っていた。煙草規制の条例を作る自治体まで登場してきた。貧困とか雇用とか教育とか、やるべきことはいっぱいあるが、そっちは大変だから、とりあえず「何かしています」とアピールするためのスタンドプレーとしか私には映らない。煙草規制の条例を作るなら一緒にアルコール規制の条例も作ってみろ!と言いたい。

 煙草ばっかり悪者にされているが、アルコールだって体にいいはずがない。私なんか冬に深酒をするとたいてい二日後には風邪になっていて、「毎回、毎回、よくもまあ懲りずに、お酒を飲んじゃあ、風邪ひいて」と、一滴も酒を飲まない妻に馬鹿にされたり説教されたりするくらいだから、酒なんか法律で禁止してくれる方がよっぽどいいと思っている。ほどほどにしておけばいいんだろうが、私は飲み出すと「ほどほど」ということができない。そんなことするくらいなら、いっそ全然飲まない方がいい。というわけで、飲む回数はひじょうに少ない。

 クラシックのコンサートなんかに行くと、休憩時間にワインを飲んでいる人がいっぱいいる。私はそういう場所では飲まないから、隣の席の人がワインを飲んだりしていると臭くてしょうがない。それが上品そうな顔しているからタチが悪い。酒飲みは自分が酒を好きなことを嬉しそうにしゃべる。それも嫌いだ。とても下品に見える。嗜好というのはもっと申し訳なさそうにしゃべってほしい。

 アルコール規制が本格化すると公共の場で飲酒できなくなる。だからきっとコンサート会場では飲めなくなる。そんなのはどうでもいいが、野球場やサッカー場でも飲めなくなる。それはそうだろう。欧州や南米でのサポーター同士の喧嘩の原因に飲酒がないはずがないのだから。しかし、それだからといって飲酒を規制するのは短絡というものではないか。もうすぐお花見の季節だが、いつの日かWHOの規制によって、花見に酒を飲むこともできなくなる。日本のお花見に相当する楽しみは世界中にあるはずだが、そういう光景がいつか地球上から消えてなくなるに違いない。

 私は、といえば酒は野外で飲むのが圧倒的に好きだ。お花見みたいにみんなが集まるのは場所取りが大変だからあんまりした記憶がない。そういうことでなく、五、六人で集まって、夜の暗い公園とかで飲むのが盛り上がる。夏ならまだいいが、晩秋や早春は夜は冷えるから、みんなガンガン飲み、激しく酔っ払う。このあいだなんか、みんなで大騒ぎしているうちに、三十年ぶりくらいに電気按摩された! まったく最低だ!