「とつぜんですが」
 と、電話の主はいいました。
「あなたに、占いを書いてもらいたい」
「うらない?」ななえはいいました。
「あなた、以前、詩のコンテストに応募しましたね?」
「ねこの詩のこと?」
「そうです。おいぼれ猫のあくびのしかたで、次の日の天気を占うというーーー」
「おいぼれねこじゃなくて、よぼねこよ」ななえはいいました。「それに、あれは占いじゃなくて、発見だわ。よぼねこのあくびと、お天気についてのーーー」
「たすけてくれ!」電話の主は、とつぜんさけびました。「占いがひとつ、足りないんだ! ひゃくいちの占い師による、ひゃくいちの占い、これがわたしの雑誌の、すべてなのにーーーおっと、わたくしはその、編集長ですがーーーあのちょびひげ占い師のやつ、たった一晩で、こつぜんと姿を消しやがった」
「たった一晩で!」ななえは、うっとりとためいきをもらしました。
「もちろん、報酬はお払いいたします」編集長は、早口でつけくわえました。
「ほうしゅう?」
「ちょこっとですが」編集長はせきばらいをすると、「つまりーーーごひゃくえん。一回の占いにつき、ぴったり、」
「五百円!」ななえはいいました。
「それだけあれば、ハーゲンダッツのいちごアイスが、二個買えるわ!」
「じゃ、きまりだ」編集長は大急ぎでさけぶと、「しめきりはあさって。できあがったうらないは、至急ポストへご投函を!」といいはなって、電話を切ってしまいました。

 さて。占い師になるからには、まず、占い師としてのなまえをきめなくっちゃ。
 そこでななえが考えたのは、風見鶏ならぬ、カゼミドリというなまえでした。
 電話がなったとき、ななえはちょうど、ハンカチをほしていました。そのハンカチいっぱいに、おおきく風見鶏の絵がかいてあったのです。
「でも、あんなハンカチ、お父さんもお母さんも、もっていたかしら」

 洗濯物をみんな干しおわると、ななえはさんぽにでかけました。
 二月の海はしずかにひろがっていましたが、もう春の気配をただよわせていました。
 砂浜に立つと、水面のてりかえす光が、どうしたって目のはしからこぼれてしまうのです。
 ななえは、ふと貝がらをひろいあげたのですが、その一秒あとには、もう占いは、できあがっていました。

うらない(海辺にて)
 すいっとのびてしまった手のひらのなか
 そこにあったのは、どんな貝だったか?

1. かつて、やどかりの家だったもの
2. ねこがい
3. 二枚貝のかたわれ
4. 霧のカケラ(ガラスのように見えます)

うらないの答え
1.左側がいいでしょう。
2.古本屋の、入口から三十三冊目。
3.あなたはさらわれるでしょう。
4.おとしものにごちゅうい!

「大反響です!」編集長は、電話口で、つばをとばしながらいいました。「あなたの占いは、月刊『イーナラウ』におけるアンケート、『すきなうらない』部門で、第一位に選ばれました!」
「すきなうらない?」 ななえはいいました。
「ひゃくいちの中でですよ!」 編集長は、興奮していました。
「それで、あたったの?」ななえはいいました。「あたしの占い、『あたる占い部門』では何位だった?」
「そのような部門はございません」編集長はあかるく答えると、「ところで、これは私的な質問なんですが」と、声をひそめました。「“ねこがい”とは、どういうもの?」
「ねこがいは、ねこがいよ」ななえはいいました。「小さくて、背中がつるんとまるい」
「貝ですか?」
「もちろん」
「しかし、」編集長はいきごんでいいました。「あの、霧のカケラってえのは、むろん、霧でもなく、貝でもなくーーー」
「あら、貝よ」ななえはいいました。「海のむこうで、霧がとじこめられて、それがくだけちって貝になったんだわ」
「そうだったのか!」編集長は、ぴしゃりとひざをうつと、まんぞくげにしめくくりました。
「じゃ、次回もよろしく!」

 ところで。このなりゆきに、ちょっとばかり気をわるくしていたのが、よぼねこでした。
「ああ、おれのあくび! おれの予言!」
 よぼねこは、ぶんぶんしっぽをふっていいました。
「だいたい、あの詩が入選していれば、評判をよんだのはおれのほうじゃなかったか?」
 そこでよぼねこは、あるひ、縁側でいちごアイスにむかっているななえを見つけるや、ひたりとそのひざにとびのったのです。
「考えたんだが」よぼねこはいいました。
「ひとつ、ためしてみちゃどうだい? おまえさんの占いが、あたるか、否か?」
「どうやるの?」ねっしんにスプーンをうごかしながら、ななえはいいました。
「簡単さ。自分で自分を占うんだ。そうすりゃ、あたるかあたらんか、すぐわかる」
「なるほど」
「ただし、」よぼねこは、ふいに目をみひらくと、ななえをみすえていいはなちました。
「占い師は、自分のその先をあてちまったがさいご、一生、その答えからのがれられない」
「占いのこたえから?」
 ななえは手をとめました。
「一生ってずうっと? ずうっとそのこたえのまんま? どうして知ってるの?」
「よぼねこが予言したからさ!」
 よぼねこはいいました。
「ななえだって、おれの予言があたるってことは、よおく知ってるだろう!」
「あら。よぼねこったら、あたしの占いと、対決しようっていうのね」
「さあ、どうする!」
「願いがかなうんならいいけど」
 ななえはいいました。
「願いだって?」
「あたし、まちへいきたいの」ななえはいいました。
「あきちゃったもの。海とか、山とか、そんなのばっかり、なんにもない!」
「まちへいきたい? こっからでていきたいだと?」
 よぼねこはぶるぶるあごをゆらしてわらい、ななえのひざからころがりおちました。
「ケッ。さあ、占うのか、逃げるのか!」
「逃げるですって?」
 ななえはスプーンをほうりだしました。
「いいわ、占いましょう」

 そこでよぼねこについていくと、砂浜がまぶしくひろがっていました。
「一生だぞ」
「よぼねこの予言が、あたるのなら」
「まずは、おまえの占いがあたるのなら」
 ふたりは息をころし、それから、いっせいにななえのてのひらをのぞきこみました。
「ハッハッ、こりゃおかしい! おまえの占いがあたっていれば、おまえは、ななえはーーーーーななえ、さらわれちまうぜ!」

 それから、一月たった、あるひのことです。
 ななえがせんたくものをほしていると、砂のついたリュックサックをせおった若者がやってきました。
「ぼくは旅人です」と、青年はいいました。
「いぜん、このあたりを旅したときに、ハンカチをおとしたのですが」
「あら」
 ななえはいそいでポケットをさぐると、風見鶏のついたハンカチをとりだしました。
「もしかして、これのこと?」
 占い師になった記念に、ななえはこのハンカチを、いつももちあるいていたのです。
「ああ、それです」
 ぱっと、花がひらくようにわらって、青年はハンカチをうけとりました。ななえは、たちまち青年から目がはなせなくなりました。
「ねえおっきなまちへいった? どこがいちばんすてき? どのまちがいちばん楽しい? まちにいけばそんなハンカチ、きっと、たあっくさんあるんでしょう?」
 とてもうれしそうにハンカチをしまうと、青年は、きっぱり顔をあげていいました。
「ぼくがいくのは、海とか森とか砂丘とか。まちじゃないとこばっかりだ」

 あくるひ、どこへいくのだとたずねるよぼねこに、ななえは急ぎ足でいいました。
「おかしいでしょう。
 あたしきっと、きょうも海へいくのよ!」
 そしておわかれもいわずに、青年のもとへ、かけていってしまったのです。

 
 それから、七十回の春がすぎました。
 ななえに恋していたよぼねこは、いまやすっかり、貝殻の中にうずもれていました。
「あいつだけだぜ!」
 こどもたちは、その山を見るたびにはやしたてました。
「カゼミドリの占いやって、恋がみつかんないのは、あいつだけだぜ!」


もくじへ