Imaginary Landscapes
A君とB君とC君とD君、そしてF君がいるとします。
え? E君はいないのかって?
そうですね。今ちょっとトイレに行っているのかも。
ていうか、本当はどこにも誰もいないのかも知れませんが、
まあ、いると思ってください。
で、A君はA君の風景のなかにいるB君とC君のことを今想い浮かべているところです。
何故そんなことを---なんて、せんさくなさらないように。
あるがままをただ受け入れましょう。
現実を現実として受け入れなければ、私たちこの世界は、たちまち崩壊してしまうでしょうから。
おやおや。A君の風景のなかにいるB君とC君は、どうやらケンカをはじめたようです。
ケンカといっても殴り合いなんて野蛮な行為ではありません。画面の下には確かにケンカというテロップが出てはいるのですが、男同士でただ単にじゃれあっているように見えます。
もしくは、乳くりあっているという人もいるでしょうが・・・
B君とC君はA君の風景のなかでは、いつもそういった仲なのか、あるいは、いま勝手にA君が思いついただけにすぎないのか定かではありませんけれど、仲良くしているのをちょっと気恥ずかしいのか、隠語めかせてケンカなどと呼んでいるのでしょうかね。そんな気がします。
1 未成年者
2 禁治産者及び、準禁治産者
3 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人または、保在人
4 破産者
5 被後見人に対して訴訟し、またはした者及び、その配偶者 並びに直系血族
6 行方の知れない者
以上、これは民法846条『後見人の欠格事由』なるもので、6つの項目のうちのどれかにあてはまる者は、後見人と見なされないとのことで、となると前出のE君は後見人となることが出来ないようです。
つまり、E君は上の6番にあたりますから。
トイレに行ったとばかり思っていたのですけれど、いや実際トイレに行ったのでしょうが、行ったきり戻ってきていません。
先をつづけます。
では、A君の風景のなかにはB君とC君しかいないのでしょうか。
いいえ、そんなことはありません。もちろんF君も・・・あっ、ほら、そこ! その暗渠のなかに腰までどっぷり浸かっているのは、F君です。
「どうしたの。なにか捜しているわけ?」
「ああ、ひじきをとっている」
いっつもマイペースなF君。よかったかわってなくて。
でも、やっぱりE君はいない。
次にB君の風景を展開させてみる。
いるいる。A子にB子にC子にD子、E子にF子にG子にI子。開いた途端、画面下手から上手へと走り去ってゆく彼女たち。
まるで、削除されるのを怖がっているかのようだ。
削除する者と、される者。
毎日このいたちごっこはつづいている。
で、いつものくせで早速削除パスを打ち込んでしまった事に気づいたが、それどころではないと思い返し、Live Camera を大きく右にパンしていく。
すると、・・・いました。
秩序が徐々に崩れてカオスにいたる。あるいはパターンがランダム性へとしだいに解体していくといったイメージがなぜその時思い浮かんだのか、自分でもさっぱりわからずその関連づけに後日やきもきしないようにとの思いから、体育館の裏の映像にあまり集中できなかったのではあるけれども、たしかに隅っこの方で学らん姿のA君、B君、C君、D君、それにF君がこっそり煙草を吸っているのが、チラリと見えたような見えないような。
しかし、そこにE君の姿がないのは確かなようだ。
E君は入学以来一度として学生服で登校して来たことはない
のだから。
・・・いったいぜんたい、どこに消えたんだろうE君は。
C君の風景を開く。
ん??????????????????????
なにも見えないっていうか、これはあれだな、シルピンスキーのギャスケットと呼ばれている、いわゆる自己相似な図形ではないか。
三角形の真ん中にできる逆三角形の部分をくり抜き、次いでくり抜かれて残った三つの三角形の真ん中の逆三角形の部分を同じようにくり抜くという、この作業を無限に繰り返すことによって得られるという図形。
それがどうしたのかと云われても困ってしまうのだけれども、そんな自己相似な図形やらコッホ曲線、カールトン集といったフラクタルなイメージがつぎつぎと浮かんでは消え、次いでビデオフィードバックとよばれるカオスの世界が出現する。それは、TV画面の中心にビデオカメラを向けズームしていくのだ。
すると突然複雑な形が画面内で激しく動きまわる。
つまり、パターんを拡大する操作がビデオカメラとTVによって果てしなくつづけられるらしい。
ビデオカメラでズームした映像がTVに映し出され、さらにそのズームされた画像をズームしてカメラが撮って、それをTVが映して、さらにその画面を・・・といった無限のカオス世界である。
C君は顔に似合わず、結構複雑なんだなあ、って・・・。
でも、これどういうこと? E君どころじゃなくって誰も登場しないんだけれど・・
・。 ま、いいか。
じゃ、つづいてはD君。(F君は割愛)
だだっ広い燃えるようなオレンジ色したガーデンの中央に真っ青なビル。
ガットギターを弾いている男。
ジョン・マクラフリンに似ていなくもない。
レッドランタ?
どこかで聴いたことがあるような。
細い道が、くねくねうねうねつづいていく。
油で汚れた換気扇。
しずくが垂れるほどにひどく濡れたさま。
酒屋へ三里、豆腐屋へ二里。
コミックすらかたすぎる。
素因。擦奏楽器。コルシカ島。ウォータハザード。ケワタガモ。
店番をしている青白い顔色の中年男性。
無限花序。青梅街道。カシミアのセーター。無花果かんちょう。
ホスホジエステラーゼ。錬金術の基本的用語解説。変容の象徴。
幾つかのxyが存在する。幾つかのxはyである。幾つかのyはxである。
父親に誘惑されたいという秘密の願望を実際にもっていることを示しているように思われ・・・。
ふたりはライフルをもって待ち伏せした。
ウルフハウンドが校庭で鳴いている。
「造船家! そいつは素晴らしい」
「これで君たちの夏もおしまいかい?」
驚くほどばかげた方法で心をつかう。ド・ブロイの軌道。五万個のコイル? 一個の粒子が生まれ、また生まれ、さらに生まれる。中望遠マクロ。花押。クチュリエ。貸借対照表。元締め。
イセブラは、みなとにつづく散歩道。
デッキにぶちまけられたポップコーン。ゼノンのパラドックス。
v−e+f=2。オーラルセックス。配置感覚。選挙ポスター。
七番日記。A君らしき人物が石段を上ってゆく。
発光ダイオード。
ある日、手に花をもってあらわれた彼。
4ビットの加算器のための桁上げ生成回路をANDゲートとORゲートにより構成する。
二階に共同トイレ。直截な物言い。
赤銅鈴之助。
笹掻き(笹かまぼこ)。
「恐怖に襲われたときは、どうしたらいいのですか?」
「何もおかしなところはない」
「あなたはいなくなってしまうだろう」
「愛にとりつかれたら、どうするのですか?」
「赤ナスは、嫁に喰わせろ、クソババア」
天の川と渡る舟の梶の葉に思うことをも書き付くるかな
ノウゼンカズラ。テクマクマヤコンテクマクマヤコン。ジマッククッジママックジマジック。
ニューカッスル。横ぐわえ。トコブシ(ドラコン)。
アニムスとアニマ。影と相互反転。
尊敬している人々がけっして口にしない事柄。
「駄目よ。駄目ったら駄目!」
「おまえはもう死んでいる」
世界の労働者の賃金。ストリキニーネ入り、ホットショット。
会社四季報。古川ロッパ。掻きしゃなぐるシルクディグリーズ。
金玉縮み上がるかも。相手先商標製品製造。
気分が悪くなった方は、ボタンを押して下さい。係員がかけつけます。
ふたりは出刃包丁をもって待ち伏せしていた。
ウルフハウンドが玄関に寝そべっている。
短半減期核種による汚染は、遊離性の汚染のみ除染する。
「ほかになにか話したい事はありますか?」
「マスターキーを持っているのは私です」
「論理的飛躍があって、多少無理がある・・・そういうのが好きなんだ?」
コンピュータおばあちゃんの会。
ブラッド・オブ・ザ・サン/レズリー・ウエスト。
DMAを有効にする。
へろへろな投球。全全半全全全半。
消し炭色のアルマーニのジャケットに片腕を通したとき、軽い立ち眩みのあとに世界が一変した。
チャバネゴキブリは、ザトウクジラの親戚か?
アデニンとグアニン,シトシンとチミンは構造的に似ている。
やや、逆光気味であるけれども、露出と目測がピタリと合った。
コンタフレックス。乾杏子。ウィスキーボンボン。
「知らなかったとはいわせない」
「そこが演技なんですね」
「ありがとう。でも、お化粧しないと叱られちゃうの」
塩基・糖・リン酸が、一つずつ結合したものが核酸の基本構成単位で、DNAとRNAはヌクレオチドを構成する糖の種類が異なる。
琥珀のなかに閉じ込められたチャバネゴキブリ。
柘榴石は一月の誕生石?
アリスのドキドキマジックショーと、マイルスのポリリズム。
セラフィニ法典サンフランシスコ・ゲイ・コミュニティ女性ドライバー40%仮設第二グループあの滑り台スペースシャトル性差別
「つねにバッハを弾きなさい」
「私はクッキーがほしいです」
「コンピュータ・プログマーってなんですか?」
五角形にとって、六角形にとっての五角形に当たるものはなにか?
さっと熱したパリパリのチーズにのせたガーリックヌードル
チーズのなかの緑と赤のラザニア
固めに茹でたスパゲティ
タワヤマシウム・ベルディモンティアヌス
DNAの異常を発見したなら、修復可能か否かを判断した後、修復不可能な場合には細胞に死を命ずる。
szenenwechsel!
出刃包丁をもって待ち伏せしていたウルフハウンドは、玄関に寝そべっているふたりを、ねめつけた。
「私はタッキーがほしいです」
「つねにババを引きなさい」
「システム・クラッツェってなんなんですか?」
デロデロな捕球。半全半半半全半。
シャツのボタンを留めてください。胸毛がはみ出していて気分が悪くなりそうです。
係員を呼びますよ。
日本のプチブルのポケットマネー。
カルピス入りクールショット。
チャバネゴキブリは、ドキドキマジックショーとアリスとマイルスの区別もつかないのに琥珀のなかに閉じ込められた1月の誕生石は、柘榴石と知っていた。
「ありがとう。ほんとお化粧しないと笑われちゃうの」
八角形にとって、三角形にとっての五角形にあたるものはなにか?
ジョン・コルトレーンに似ても似つかない、トロンボーンをインラインスケート靴でグシャグシャに踏み潰している中年男性。
「知らなかったのは、お富さんだけ」
どこでもないどこか、誰でもない誰か。
酒屋へ固すぎる豆腐を持ち込んで、『恋はパオパオ』のコミックを汗の雫が垂れるほど読んでたら、酷く濡れた。
顔面が青黒く内出血した中年男は、店番を辞めたらしい。
「象印賞! おまえはすでに死んでいた」
「これで夏も君たちもお終い」
愛染カツラ。 愛染キョウコ。
トイレにぶちまけられた小間物(問屋)。
会社四季報のコラム欄に載っていた古川ロッパについてのエッセイは、まるでニョッキ入りホットチリペッパーってな感じで、「世界の労働者もビッツリ! キャンタマ縮み上がるかも」なんて相手先登録商標製品製造しながら、掻きしゃなぐるシルクディグリィーズ。
「ほかにも食べたいものはありますよ」
「バスター・キートンを待っているのは、私です」
DMAを有効にせよ!
ふたりはライフルと出刃包丁をもって待ち伏せしていた。
ウルフハウンドが玄関で眠たそうにしている。
トイレでおっぱじまったオーラル・セックス。
オグリンシンザンは第4ゲートより発走いたします。尚、ANDゲートとORゲートは加算器の桁上げ生成回路のため発走中止となっております。ご諒承ください。
3階に共同バス、4階に選挙ポスター掲示板。
ポップコーンからパラドックスが生まれ、また生まれ、さらに生まれた5万本の中望遠マクロレンズを首からぶら下げて、港につづく散歩道を驚くほど馬鹿げた方法で歩くと花押が押された貸借対照表がもらえると元締めのクチュリエが、そういった。
ふたりが、ライフルを取り合って争っているうちにセーフティがはずれ暴発した。
田んぼでカエルとウルフハウンドが鳴いている。
幾つかのx+y=Loveが存在する。幾つかのx+xもイコールLoveである。
奏因数分解。薩摩隼人。ザビエルハゲ。ウェザー・リポート。
桑田かも。
青梅街道でカシミアのセーターを着た中年男性が、消し炭色のズボンをさげて座り込み、無花果かんちょうをゆっくりと挿入していると、不意にホスホジエステラーゼが分泌されるとともに『錬金術の基本的用語解説』で読んだ変容の象徴を想い起こした。
リストラによるかく首によって超短期のバイトに就かざるをえなかったが、仕事の内容は温泉宿のノミ駆除だ、許せ。
「つねにブッダを拝みなさい」
「わたしはタッパーがほしいです」
「ところで、プログレってなんでしょう?」
あの滑り台からスペースシャトルは打ち上げられたと、女性タクシードライバーの40%が証言したのは、サンフランシスコ・ゲイ・コミュニティに肩入れしているわけでも、セラフィニ法典によるものでもなく、ただ性差別撤廃を訴えるためである。
コテで固めたバリバリのパンチパーマ頭の上にガーリックヌードルを盛りつける。
(付け合わせはゴーヤ)
地図のなかに緑と赤のタンザニア。
固めに茹でたプロ串。
彼の異常な行動を発見したならば、二人の仲が修復可能か否かを判断した後、修復不可能な場合には、彼に死を宣告する。
消し炭色のアルマーニのズボンに片足を入れた時、不意に悪寒がして思わず失禁していた。
店番をしている青白い好色の中年男性。
B君らしき人影が石段をのぼっていくのが見える。
アヌスと兄貴。ハゲと相互反転。
係員がボタンを押すと気分が悪くなります。
無花果かんちょうでガットギターを弾こう。
相手先商標製品製造でつくったストリキニーネ入りホットショットが売れに売れ、世界の労働者賃金底上げに貢献したとして一気に一部上場し、会社四季報にも載っている我がカキシャナグルシルクディグリーズ社。
「駄目よ駄目ッたら駄目。もうイっちった」
カシミアのセーターを腰に巻いて、くねくねとくねる細い山道を二ノ宮尊徳になったつもりで、油で汚れた換気扇を背負って少し固めの文庫本を読みながら、酒屋へ三里豆腐屋へ二里と、へろへろと歩き廻る。
ふたりはウルフハウンドを連れライフルをもって待ち伏せした。
ウルフハウンドは、もう鳴かない。
さてと。
じゃ、この辺で紙面の都合上E君に登場していただきましょう。
あ。ちょっとその前にE君は誰に似ているのか、みんなに訊いてみます。
A君: そうだなあ。中山キンニクン似かな?
B君: キンニクンでしょう。
C君: キンニクンそっくり。
D君: キンニクンくりそつ。
E君: キンニクン本人。
といことで、いよいよご本人に登場していただきます。
果たして中山キンニクンに似ているのでしょうか!
それでは、どうぞ!
こんちは。Eです。
この頃よく、おまえ中山キンニクンによくにてるなあって云われます。
ほ〜! ご覧の通り、中山キンニクンに似ているって本人も云っているとおり、かなり似ていますねえ。いやはや、これはヒドイ。
A君: ていうか、誰にも見えないんだから本人なのか誰にも確認できませんよね?
ええー! なななんと、A君にはE君が見えないんですか?これはたまげた、おったまゲー!
B君: そういうあなたには見えるんですか?
見えますよ。見えますとも。見えてみせます! なんちゃてぇ。
テヘヘヘヘ。大きな声ではいえませんけれど、実のところな〜んもみえてません。
C君: あったりマエダのクラッカーですよね。これは小説なんだからっつーの。
E君: さてと、んじゃ今度はほんとに自分をこの世から削除しよっかなぁっ、と。
了
October Truth
由美の部屋に集まっていた―――亡くなったふたりを除いた―――
ミステリ研の五人は、所轄の玉川警察署で連日に渡り、取調べを受けていた。
その日、唐丸は二度目の呼び出しで所轄に出頭した後、なんともやるせない気持ちを抱えながら何の目的もないまま大学に来てしまった。
正門を抜け、行くあてもなくキャンパスをそぞろ歩いているうちに入学当時のことを思い出していた。
はじめのオリエンテーションの行なわれた後で、クラスごとの記念撮影があったが、数日を経て手にしたそのキャビネの写真には、まかりまちがっても新入生とは思えないオヤジがふたり写っていた。
それが、ミステリ研の三回生である水海道と天下茶屋の両先輩だったと分かった時には、なんてやつらなんだと思ったもんだった。
本当はミステリ研でなくジャズ研に入ろうと思っていたのに、あの両名に丸め込まれてしまった。一杯のコーヒーとショートケーキをおごってもらって、喫茶店から出てきた時には既にミステリ研の一員となっていた。
・・・そんなことを思い出しながら、足は自然に部室へと向かっている。
お世辞にもきれいなどとは、いえない部室。すえたような変な臭いすらする。しかし、唐丸はこのちっぽけなマッチ箱のような部室が好きだった。
ドアの前に立ち、数字を合わせて鍵を開ける。
さあ、いよいよだと唐丸は身を引き締める。
この部屋に何気なくやって来てしまったかのようだが、実のところそうではないことは否めなかった。唐丸には、ある人物がこれからここに現われるとの予感があったのだ。―――そしてその人物こそ真犯人に相違ないのだとも。
ほどなくして―――その人物が唐丸の前に姿を現した。
「あら、唐丸君だったんだ。学食の窓からドアが開いてるの見えたから誰かいるなって思って―――講義はフケちゃったの?」
唐丸は、ゆっくりと向き直り目を細めた。
「いや。由美さん、あなたを待っていたんです」
「あたしを?」
真顔で頷く唐丸。その時、ふたり組みが入ってきて奥の席に座った。
「なにかあったの?」
「それはあなたが一番ご存知でしょう」
「え!?」 由美は目を瞬き、独り幾度となく頷いてみせた。
「そうか、そういうことね。捕まってしまう前に話しておきたかった・・・そういうことなんでしょう?」
「そうです」と唐丸。「同じミステリ研のメンバーとして、どうしてもこれだけはやっておきたかったんです」
すべてを放擲したかのような、その潔さに由美の眸にじんわりと涙のベールがかかった。
「そうよね。そうしてから自首するべきよね、犯した罪は許されざるものだけれど」
その後は、自分に言い聞かせるように・・・「罪を憎んで人を憎まず、だもんね」
唐丸はあいまいに頷く。
「でもなんであたしの? ミステリ研のメンバーは他にもいるのに・・」
「それは・・」口元をゆるませる唐丸。「むろんあなたしかいないからですよ」
「まあ、ほんと? 光栄の至りね・・・それじゃ、真相を聞かせてちょうだい」
そういうと由美は、スツールに腰掛けて目をつむり、唐丸が罪を懺悔するのを待った。
「由美さん・・」苦笑しながら、「何か勘違いなさっているようですけれど・・・まあ、いいでしょう。順序だててお話してゆきます」
由美はちらりと目を開け、この期に及んで何を云っているの、早く楽になっちゃいなさい・・・と思った。
「実は」唐丸は落ち着いた声音で話しはじめる。「警察関係者の知り合いからちょっと聞いたんですけど、どうも犯人は二重に毒殺の用意をしていたようなんです。
水海道先輩の死因は、確かに毒入りタバコの吸引によるものだったということで、水海道先輩以外で唯一そのタバコに触れたのは、天下茶屋先輩なのですから、一応天下茶屋先輩が犯人であると仮定出来るのですが、あの場にあったすべてのティーカップにも毒が塗布されていたらしいんです」
・・・なにがらしいんです、よ。詭弁を弄してないで早く言えばいいのに、と由美は唐丸をにらんだ。
唐丸は更に続ける。
「でも、どうもひっかかるんですよね」
「何が?」 思わず由美は訊いていた。
「先ず第一に、天下茶屋先輩が犯人であると仮定してのことですが、どうやって先輩がティーカップに小細工出来たのかがわからないんです。鑑識によると、すべてのティーカップの取っ手の部分の内側上部に、亜砒酸が塗られてあったということなんです」
由美はすかさず思った。ほら、ボロがでた。なにが鑑識よ。自分がやったから知ってるんでしょうに・・。
「となると、ティーカップをテーブルに並べおえた時点で既に、塗布されていたと考えるのが自然ですよね。そう考えると天下茶屋先輩以外に誰か、亜砒酸を塗布した人物がいるのではないか、ということなのです。
第二に、どんな目的でティーカップに吸い差しのタバコが、入っていたのか、ということです。あの時は大騒ぎになってしまって気付きませんでしたけれど、なんか不自然でしょう?」
そうか―――と、由美は思った。そうくるなら、あたしにも考えがあるわ。絶対、切り崩してみせる! 由美は口を開いた。
「ああ。それは、タバコという証拠を消すためじゃない? 紅茶の中に入れることによって、元々紅茶自体に毒物が混入していたと思わせるように」
「ええ、そうなんです。ぼくもそう思いました。でも、こともあろうに天下茶屋先輩が、そんなことをやるはずがないんです。不自然死は、必ず解剖されてしまってすぐ死因はバレてしまうんですから」
悔しそうに、「じゃ、何故?」と由美。
「こういうことなんじゃないでしょうか。つまり、先輩は毒物がティーカップに塗布されていると、既に知っていたのではないか」
「何でそんなことが言える訳?」と由美は食い下がる。
「盲点をつこうと考えたからじゃないでしょうか。証拠であるタバコを隠すために、紅茶に吸い差しを入れたのだと思わせる事によって逆にカップ自体から注意をそらせようとしたのではないか、そう思えるんですけど」
「で、 そうだったとしたら、どうなるの?」
「そうなると、やっぱり共犯者という存在が浮かんできますね。タバコの吸い差しをカップの中に入れるというのは、不可解なんですよ。まったく無意味だ。それを敢えてやった。故意にか、無意識のうちにやってしまったのかは、はっきりしませんが、―――そう考えてみると水海道先輩だけが、ターゲットではなかったとも考えられる訳です。
ティーポットは、テーブルの真ん中に置いてあり、毒の塗布されている箇所を知っているものならば、誰にも疑われることなく毒をカップの中へと、溶かし込むことができたわけですけれど、水海道先輩が早々とタバコを吸ってしまったために、みんなは紅茶を飲むどころではなくなってしまったのであり、仮に二杯目の紅茶を注ぐ機会がそのとき得られていたならば、犠牲者はさらにふえていたかもしれないと思えるんですよ」
由美は、黙ってしまった。
「ねぇ、由美さんどう思います? 犯人は他に誰をねらっていたんですかね」
「そんなこと知るわけないでしょ 」と口をとがらせる由美。
「まあ、共犯者がいるのではないかというのは、あくまでもぼくの考えた仮説なんですけどね。でも、天下茶屋先輩の単独の犯行だとしても、その動機がわからないんですよ、まったく」
そう云って唐丸は、由美の顔を覗き込むようにして見た。
「由美さん。どうなんです。もうそろそろほんとうのことを話してくれませんか」
「それどういう意味?」と由美は唐丸をにらみつけ、「私が真犯人とでもいうの!」
と居丈高に云った。
「そうとまでは云いませんが、―――ある程度関係していたのではないか、そうぼくは考えざるをえないんですよ」
すると由美は、「たいした推理力ね。じゃ、あなたの推理とやらをお聞かせ願えませんでしょうか」と、鷹揚に云った。
唐丸は居住まいを正して、話し始める。
「先ず、あなたは前回の推理会の後で絵美さんの話を聞き、―――自分が当の恋敵だとは絵美さんに知らせぬまま―――水海道先輩に灸を据えようと、絵美さんに持ちかけた。
絵美さんもそれに同意し、ふたりして計画を立てているとき帰ったとばかり思っていた天下茶屋先輩が、ひょっこり現れたのではありませんか?
先輩は、戸口のところですべてを立ち聞きしていたのですね。
「おいおい、なんかおだやかじゃないね」
その声に由美と絵美が振り返ると、天下茶屋が腕組みをして開け放たれた戸口のところに立ち、したり顔でウィンクしてみせた。
「なによ、びっくりするじゃない。ノックぐらいしなさいよ」
「こりゃ失礼。あまりにもおふたりが真剣に話してるもんでね」
「全部聞いてたの?」
「まあね」
「あきれた。サイテーだね、キミは」
「ま、そういうなよ」
天下茶屋は、そう云いながら手近なパイプ椅子のひとつに腰掛けた。
ジージャンの胸ポケットから、しわくちゃのタバコのパッケージを取り出してタバコに火を点けると
「俺もその計画に混ぜてくれないかな」と、紫煙を吐き出しながら云った。
由美と絵美は、互いに顔を見合わせると、『何かいい方法でもあるっていうの?』
と言いたげな目で天下茶屋を見遣った。
「―――おたくらの云ってた今の下剤を飲ませるってのは面白いけれど、具体的な方法は何も考えてないんだろう?」
由美は不承不承頷く。
「じゃあさ、こんなのはどうかな」 天下茶屋は身を乗り出して話し始める。
「あいつはヘビースモーカーだろ、だからタバコってのはどう? ああ見えてもあいつは勘が鋭いからね、次回の出題者は絵美ちゃんなのに急に益子も加わるとなると、それだけで何か企んでるなと思うよ。―
――その上、ただ下剤を飲ませるんじゃ芸がないから、それを謎解きの問題とするわけだろ、こりゃ、なんかあると思うだろうな、やっぱり。そこでだ。やつは、飲み物は極力口に含む程度で、飲まないようにするんじゃないか。ところが、そっちばかりに気をとられていてタバコにまったく意識がいってないって訳さ」
「こんな具合に、話しが進んでいったのではないですか?」と、唐丸は訊いた。
由美はとりすましたまま、何も言わなかった。
構わず、唐丸は先をつづける。
「それで、・・天下茶屋先輩が、そのタバコを用意するということになったんでしょうが、先輩は下剤ではなく亜砒酸という劇物をタバコに含ませた。
具体的には、フィルター部分に注射器で注入したか、あるいは、亜砒酸溶液にタバコ全体を浸した後で、乾燥させたのでしょう。無味無臭なので、鼻を近づけたとしてもそれと全く気付かないらしいですよ。
しかし、こう推理してみても、天下茶屋先輩自身までもが、亡くなってしまったこと、そして水海道先輩を毒殺した動機が全くわからないんです」
そこで由美は、あははと声をあげて笑った。
「さすがの唐丸探偵もお手上げって訳? 迷推理をどうもありがとうってとこね」
唐丸は、眼鏡をはずし、レンズに付いたほこりに息を吹きかけた。
「そうでもないんですよ、まだつづきがあるんです。すべてが辻褄の合うようにするには、どう考えたらいいのか、ぼくの第二の推理はこうです。
実は、由美さん―――あなたの方から天下茶屋先輩に話を持ちかけたんではないか、タバコの細工もあなたが考えて、現物を天下茶屋先輩に手渡した。
あなたには、立派な動機があるんです。水海道を絵美ちゃんに寝取られたというか、裏切られたという・・・。
天下茶屋先輩には、下剤を含ませたタバコと偽って水海道先輩を殺害させ、ティーカップに塗った毒によって―――こちらは、未遂に終わりましたけど―――絵美ちゃんを毒殺しようとした。
そうしてことの経緯を知っている天下茶屋先輩は、犯行後口を割られては困るので、はなから殺すつもりでいた。具体的には・・・」
そこで由美が、再び「あははは」と高笑いした。目には涙まで浮かべている。
「もう、ほんと笑わせてくれるのね。下手なお笑い芸人よりか面白かったわよ」
そう言い終えると、由美は表情を一変させ、唐丸をにらみすえた。
「あなたがミステリおたくなのはわかるけれど、それを実行に移してしまったのはまずかったはね」
「どういうことです?」と唐丸は由美を訝しげに見る。
「しらばっくれないで。あたしにはわかってるのよ、すべて。あなたのご高説を拝聴してたけど――だいいち、あなたは何故水海道くんが、絵美ちゃんとあたしのふたりに二股かけてたって知ってる訳?」「そ、それは・・・」と唐丸は口ごもる。
「ほらごらんなさい。あなたの言った第一の推理によると―――あたしと絵美ちゃんが話をしてる時、天下茶屋くんが現れたってことになってたけど、あたしたちの話をこっそり盗み聞きしてたのは、天下茶屋くんじゃなかったってことね」
唐丸は面食らったような表情を一瞬浮かべたが、すぐにさも楽しそうな口振りでいった。
「へえ、そう来ましたか、それで?」
「上等よ。聞かせてあげるわ、真相を」と自信たっぷりの由美は、腕組みをして話し始める。
「自他共に認めるミステリおたくであるあなたは、常日頃から完全犯罪を実際に自分の手で成し遂げてみたいと考えていた。
確かにあなたの第二の推理とやらのとおり、あたしがタバコの件を考え、天下茶屋くんに頼んだのは認めるけれど、でも何故あなたがそれを知っている訳? まさか推理したとでも言うんじゃないでしょうね」
唐丸は心外だと言わんばかりに大げさに肩をすくめてみせた。
「そう、推理したんです」
「あらそう。だとしたらたいした推理力ね。―――でもね、あたしはそうは思わないの―――いつから立ち聞きしてたのかは知らないけれど、あたしたち三人の計画を盗み聞きしていたあなたは、この気を逃すまいと思ったのよ。
完全犯罪を成立させる千載一遇の好機到来ってわけね、お膳立てはすべて整っている。
計画では―――天下茶屋くんが水海道くんのタバコを一本もらう際に、そのパッケージの中へ下剤を仕込んだ一本を紛れ込ませることになっていた。
でも、その前に何気なしにあなたもタバコを切らしちゃってとか言って、水海道くんのタバコのパッケージを手にとって、一本貰ったんじゃないの? ・・・その時、あなたは用意しておいた日本の亜砒酸入りのタバコを、まんまとパッケージの中にすべりこませたのよ。
ヘビースモーカーである水海道くんの方は、それに当たるのは時間の問題だったけれど、あろうことか天下茶屋くんまでもが、それを選んでしまった・・・」
そこまで聞いて唐丸は、ヒューと口笛を鳴らした。
「凄い推理ですね、凄すぎる」
「なんとでも言いなさい。でも、もう言い逃れは出来なくてよ」
「そうですか。ま、百歩譲ってそうだとしましょうか。でも、ティーカップの件はどうするんですか?
あれはどう考えても、ぼくには出来っこありませんからね」
「そうね。あなたには無理。あなたひとりではね」
唐丸は目を大きく見開いた。
「あなたは、そこで考えた。絵美ちゃんを利用しようとね。絵美ちゃんに、水海道くんが二股かけてるもう一方の相手が、あたしであると教えたのよ。・・親切めかして。
そして、絵美ちゃんに件の計画を喋らせるようにうまく仕向けて、自分は、さも驚いたようにその話しをきくと、それはちょっとおかしいですね、―――とかいって、あたしを疑わせるよう上手に誘導し下剤を飲ませられるターゲットは、水海道くんなどではなく自分なのだと思わせたのよ。
そうしておいて、―――その裏をかいてやりましょう。ぼくにいい考えがあります―――そんな風に言って、後日下剤と偽って毒を手渡し、ティーカップに塗るよう指示した、という訳ね。
どう、もうぐうの音もでないでしょう?」
「恐れ入りました」
唐丸は、あきれ顔でそう言って、大きく溜息をついた。
由美はと見れば、己の推理に酔いしれながら勝ち誇った様子で会心の笑みを浮かべ、更に唐丸を完膚なきまでにやりこめようと口を開きかけた。
―――その時、
部室に勢いよく絵美が駆け込んできた。
どうやら、ずっと走ってきたようで、ふたりの前で肩を上下させて暫くは苦しそうに喘いでいた。
「どうしたのよ、絵美ちゃん?」
絵美は無言のままバッグから封筒らしきものを取り出し、そこではじめて口を開いた。
「手紙が来ました」
「誰から?」
「・・・水海道先輩から」
えー、うっそー! と由美が素っ頓狂な声を上げ、絵美が差し出した封筒をひったくるようにして手に取ると、ためつすがめつしながら「ほんとだ、彼の字に似てるわね。あら、でも由美ちゃんまだ開いてないのね」と、独り言のように口の中で言った。
「私、なんだか怖くって読めなかったんです」
由美は、手紙から目を離さずに「そうよね。今頃になって手紙が届くなんて、悪い冗談よね」
その言葉に絵美は頷きながらも「・・・って言うか、この手紙に真相が書いてあるんじゃないかって気がして仕方なかったんです、それで・・・」
「真相?」
唐丸が由美から手紙を受け取り「そうだね、絵美ちゃん宛てだけれど、ただの私信じゃないかもね」
と再び由美に手渡した。
「由美さん、開封して下さい」と絵美。
「え? いいの? ・・じゃ、みんなを代表して・・・」
――― そして、由美は声を出して手紙を読みはじめた。
はじめに―――
みんなには多大な迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ないと思っている。
殊に益子さんには、―――部屋を汚してしまい―――謝る言葉もない。
今回のことは、すべて天下茶屋とふたりで、幾度となく納得のゆくまで話し合い決めたことだ。
ぼくはずっと謎解きに魅せられ、小説の上だけでなく実人生においての一見不条理な出来事でさえも論理的に解明してゆき、謎をひとつひとつこの地上から消し去ってゆくことによって世界の仕組みを(ちょっと大げさかな?)―――あるいは、心理と言い換えてもいいかもしれないが―――知りうることができるものとばかり思っていた。
でも、死を覚悟してわかったことだけれど、どうやらそれは違うようなんだ。世の中は、そんなに甘くない。理詰めでやろうとすればするほど、実は心理から遠ざかってしまうんだ。
変な表現だけれど、世界は、あるいは真理は、単純で複雑なものだ。要は人間次第なんだよ。複雑に考えれば、どこまでも果てしなく複雑きわまるものだし、単純に考えれば、それこそほんとうに単純明快なんだ。
人間の営々たゆまぬ努力は、すべてこの真理に少しでも近付かんとするものだったけれど、どこかで道を踏み誤ってしまった。
とどのつまり、人類の究極の目的は不老不死にある。これってあまりにも馬鹿げていると思わないかい?
臓器を取り換え、皮膚を移植し、遺伝子を組み換え・・・。
でもね、終わりのない生なんて、ほんとうの意味での生とはちがうものだ。それは、死と同義だよ。
すべてには、はじまりがあって終わりがある。そして、終わりがあるからこそ始まりもあるんだ。そこをはき違えてはいけない。
つまり、忌憚なく言えばもう人類に明日などないんだよ。待っているものは破滅だけだ。
いずれ、はじまったものは、いつかは終わらなければならない。その終わりの時が、もうすぐそこまで来ているんだよ。ぼくらは、そんな修羅場につきあいたくはないんだ。
お先にあっちにいってるよ。
まあ、それが理由といえば理由かな。
でもね、ただ死んだんじゃつまらないなって思ってたところへ天下茶屋が、面白い情報を教えてくれたんだよ。それで、これは使えるぞってことになって計画を立てたんだ。
タバコはむろん、天下茶屋が用意したけれど、ティーカップの方は、ぼくがやったんだ。ぼくは益子の部屋の鍵を持ってるからね。当日、益子が大学に行ってる間に忍び込んで既に用意されてあるカップに塗ったんだ、簡単だったよ。
ざっとこんな具合だけど、みんなの推理はどうだった?
唐丸くんあたりは、結構いい線までいったんじゃないのかな。
それじゃ、この辺で。
重ねて皆さんにご迷惑をおかけしたことをお詫びします。
では、―――アディオス!
暫くの間、三人とも無言だった。
「ほんとうかしら、これ」と、由美がぽつりと言った。
唐丸は、あごに手をやって「う〜ん。なんかもっともらしいことを言ってますが、俄かには信じがたいってところですが」
「そうよね。ごたいそうなこと書いてあるけど、ちょっとね・・・」
と、そこで絵美が、「あの、関係ないことなんですけど・・・」と由美の方を向いた。
「え?」
「あの、水海道先輩が部屋の鍵を持ってるって・・・」
「あっ!」と由美が顔を赤らめた。やっぱり知らなかったんだ。
「ごめんね、隠すつもりはなかったんだけど・・・つい言いそびれちゃって」と絵美に頭を下げた。
「そうなんですか」と絵美は、遠くを見るような目をした。
すると唐丸が、気まずくなった雰囲気を払拭するかのように、暢気な様子で言った。
「でも、なんでまた天下茶屋先輩なんですかね?」
「そうよ。そこよね、よくわからないのは。さっきの人類の危機とかで意気投合したのかしら」
「でも、そうだとしても、それじゃ一緒に死のうかってことになりますかね」
「ひとりで死んでゆくのが、寂しかったんでしょうか」と絵美。
「普通は道連れって、愛するもの同士ってのが相場ですよね」
「えっ?」と絵美が唐丸を見る。
「へんなこといわないでよ。すごすぎるわよ、それ」と由美。
絵美はわからないのか、「すごすぎる?」
「いや、あくまでも仮設ですよ。でもそう考えると、しっくりくるんです」
「まさか・・・愛し合ってたなんて・・」と絶句する由美。
「いや、そうじゃないと思います。そんな話あまり聞きませんからね。その・・・男同士で愛し合っていて情死するってのは。だから、真相は―
――すべて水海道先輩が独りでやったことなんじゃないでしょうか。
先輩は、同性愛者である自分を恥じていた。それでも天下茶屋先輩を愛してしまい、気持ちをうち明けずにはいられなくなって思いを伝えたところ、すげなく断られてしまった。あるいは、気持ちを告げることすら出来なかったのかも知れませんが・・・。そこらへんは、はっきりしませんけれど、とにかく思いを遂げられない自分に絶望して、死を決意した。それも、天下茶屋先輩を道連れにして―――。
こう考えると、筋が通りますね」
「じゃ、あの手紙はまるっきり嘘ってこと?」 口をあんぐりとあける由美。
「いや、“哲学的な死”ですか確かにそういった考えもあるにはあったんでしょが、直接的な動機としてはやはり弱いでしょうね。失恋による無理心中―――こう考えるのが、いちばん自然ではないでしょうか」
そう言いながらも唐丸は、己の導き出した解答に途方に暮れ、言葉を失った。
・・・やがて重い沈黙が緞帳のようにしずしずと五人の頭上に降りてくると、例の影のような二人組は、大団円を迎えた一幕のドラマを見終えた観客のように、パチパチとまばらに拍手し、そそくさと部室から出ていった。
了
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